2009-05-31

燕土

我が廟門を過ぎるとき 肚腑に熾る鈍い痛みの塊は 湿地に残された乾土の島を喚起させる 草も無く 生き物もなく 地熱の立ち上る穢土が広がる 空は低く 湿った雲は厚く垂れ 閉塞された内面の感覚によって充足する 湿泥に棲息する両生の類は愉楽に歪む事なく空を仰ぎ取囲んでいる 頭上から降る燕戸の屑 潮騒を聞きながら 成る程此所は確かに海に近い そうしてまた廟柱の青錆の奥の朱を指の肚の先の肌で愛撫しようとしている

2009-05-22

青春

心がぽつねんとして独り寂しく溜っている 相変わらず思考や感覚は私のからだに留まり 二度とは触れ得ぬ想い出の頁を手繰るのや 次々に過ぎ去ってゆく文字の手応えを辿ることで忙しい 少し離れた処で独り寂しく溜っているあの心は 人と人との間に生まれてよりずっと 互いに触れあい交らうことの悦びを頑なに拒みつづけた手や足や心臓を繁殖させもしながら 脈を打つ膜越しの緊張によって 数秒間隔の刺戟で放出される軌跡を色濃くイメージさす それは男であること女として育ったこと みな哀しいさだめと青い樹木の森に遊んだ日々の標であり 野辺は蒲公英と少女たちの鮮やかに映える風景を背にして 季節のために相応しい名を与えることができない男の姿を立ち上がらせた 険しく切り立った峯 その向うに靡く空は ようやく青春の色を帯びて匂いたつ