2009-02-02

黙祷

ぐっと両のまなぐをおさえる。いまではすっかり冷えて固まってしまった巌っ原の隆起した肌が指す拡がりはなんだか透明な僕らの潤んだ網膜の内側でゆったりと棚引く茜雲をぼんやりとらえて、やぁ山のあんつぁ今夜もきっとしばれるねぇ、夜になるとまたきぃんと鳴って何億も昔の星たちの残光がうす蒼くなったりするのをやっぱりただ黙ってじっとして、そのとおり黒くてなだらかな影のいっそう大きな背中に向かうと誇らしさがこみ上げる、口をきっと結び、息を潜めてまなぐを空ける、すると天球がじんわりと膨らんで夜気がとくとくと溢れてゆく。そうらみろ、そもそも故郷とは古里から離れた人間だけに許された言葉だ、おれはもうとっくにここには居ない。いまではすっかり冷えて固まって巌っ原が拡がり、もはや微塵も動かぬ山と流れてゆく時間とが存在するばかりだ。その男は予てより望んだ自然との合一を果たし、私は両のまなぐからおさえていた手をゆっくりと外した。夜空では星が尾を牽いてながれていた。